20年が過ぎ去った日航ジャンボ墜落事故  御巣鷹事故・犠牲への鎮魂

                                               第一電気株式会社 佐藤 寛

  羽田発大阪(伊丹)行き日本航空ジャンボ123便が群馬県上野村御巣鷹の尾根へ墜落し、520人の命が奪われた事故からもう20年が過ぎ去ってしまった。
 今日の新聞にもたくさんの遺族が登山口に集まり、前夜からの雨でぬかるんだ険しい山道を連なって一歩一歩登っていった様子が報道されていた。
 事故当時毎日のように墜落の原因が報道され、原因究明又は解析のための多くの出版物も発行されていたのも記憶に新しい。

 このような悲惨な事故が油圧配管破断が原因で発生したことは、油圧機器製造に携わるものにとって、正に青天の霹靂である。

 安全のために4系統の油圧制御となっていたにも係わらず、尾部の狭い空間にその4系統の油圧配管が一束に纏められていた所を圧力隔壁の破裂により一瞬のうちに全て切断されてしまったら操縦不能となることは誰でも理解出来るであろう。
 陸上の油圧機械ならば、例え油漏れが発生しても、火災にさえならなければタンク内部の作動油が全て流出してしまえば自然に停止するであろうと高をくくっていたものが、空の上の油漏れはどんなに大形の飛行機でも墜落以外考えられないとなると、油圧の仕事から手を引きたくなるのも当然であろう。

 事実この事故と相前後して、油圧から電動へと乗り換える動きが雪崩のような勢いとなって来た。
 確かに油圧の大推力を必要とする大形機械は、油漏れに手を焼く、エネルギー効率が悪い、熱が出る、うるさい、振動が酷い等多くの欠点を指摘され電動機を駆動源とした電動アクチュエータにその主力の座を奪われたのも当然のことと考える。
 然し超大型飛行機が音速に近い速度で飛行すると垂直尾翼又は水平尾翼等の姿勢制御用フラップは旗がはためくような振動を起こし(フラッター現象と言う)放って置くとフラップが破壊されてしまう。このフラッター現象は非常に剛性の高い油圧シリンダを使用して押さえ込むこと以外方法がないことも広く知られている。従って高速飛行機の姿勢制御を電動アクチュエータで行うことは出来ない。

 出来ないとは言いながら油圧制御はなお怖いとなるとどのような対策をたてたら良いのであろうか。小生は油圧装置から配管を追放することが出来れば墜落原因を少なくとも一つは減らすことが可能であると考えた。配管をどのようにして追放出来るか、その方法は電動機、油圧ポンプ、油圧シリンダを一体に纏めハイブリッド化してしまえば配管はマニホールドの内部に隠れ外部には現れないと考えた。但し試作してみると今度は制御弁が邪魔になって来た。ハイブリッド化すると言うことは小型軽量化を計ることにもなり制御弁の大きさ、重量が小型軽量化を邪魔することになって来る。

 但し制御弁を追放するためには別の制御手段を考える必要が出てくる。制御弁に替わる別の制御手段を一年近く模索し、サーボモータで油圧ポンプを直接ドライブすることを考えた。油圧ポンプを正逆回転させることにより作動油の吐出方向を変えることが出来る。
これは即ち方向制御弁の機能を肩代わりすることになる。油圧ポンプを停止させれば作動油の吐出も止まり、ストップ弁の機能と同じことである。油圧ポンプの回転速度を変化させれば作動油の吐出量もそれに比例して変化する。これは正に油量制御弁の機能である。

 サーボモータの出力トルクを制御するとそのトルクに比例した油圧が得られる。圧力制御弁がなくても圧力制御が出来ることになる。

 方向制御弁、油量制御弁、圧力制御弁がなくなると言うことは全ての制御をサーボモータで行うことが出来ることを意味している。
 このように配管及び制御弁を追放し、電動機、油圧ポンプ、油圧シリンダを一つに纏め、ハイブリッド化することによって小型軽量のアクチュエータが出現し、然も極めて高剛性で高効率とすることが出来た。作動油の使用量も激減し従来のオープン型の油圧装置と比較し1/40〜1/50とすることが出来た。従って廃油処理も楽になり環境保護の恰好の題目となるであろう。

 又サーボモータで制御することになると、これは最早油圧制御の範疇から外れてしまい電動アクチュエータとなってしまう。何故ならば電動機の回転エネルギーを油圧エネルギーに変換し、その油圧エネルギーで油圧シリンダを動かすとなると作動油はサーボモータの回転エネルギーを油圧シリンダのロッドまで伝達するための力の媒体であると考えることが出来る。となると制御はサーボモータが受け持つことになるので電気制御と言わざるをえない。従ってこのようなハイブリッド・アクチュエータは電動アクチュエータと定義するべきである。

 ハイブリッド・アクチュエータは電動アクチュエータの特長を全て備え、然も油圧シリンダの高剛性も併せ持っていることになるので折衷案として電動油圧アクチュエータと呼んだほうがより自然であると考える。
 従って従来のオープン型の油圧装置では極めて困難な位置の制御と推力の制御を同時にこなすことが出来るようになり、位置の制御はミクロン単位まで可能、推力の制御はフルスケールの1/4000程度まで出来るようになって来た。
 非常に単純で小型軽量にも係わらず極めて高精度の制御機能を有し、然もエネルギー効率が極めて高く、振動、発熱も激減させることが出来た。

 外国でもこのようなアクチュエータはEHS(Electro Hydraulic System)又はEHA(Electro Hydraulic Actuator)と呼ばれ電動アクチュエータの範囲とされている。
 20世紀の油圧機械は制御弁の時代とすると、21世紀は電動油圧アクチュエータの時代となるであろう。
 このように飛行機の墜落原因を一つでも減らそうとして考えた結果としての産物が事故の防止及び地球環境保護のために役立つことが出来れば最高の幸せである。

 



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