電動か−液動か Electric Power or Fluid Power

                                               第一電気株式会社 佐藤 寛
   Key words:Is it possible to produce a precise hydrauric control system without any control valves.

 
1.緒言
 最近『電動かフルードか』の論を目にする機会が増えてきた。これらの論の大部分は電動の立場に立った優位性、又はフルードの立場からの意見を述べたものである。という事は電動が有利なのか、それともフルードが有利なのかを議論することであると考える。
 どちらも大きな力を発揮するアクチュエータに違いはないが、それぞれ 一長一短があり、単純に優劣を決めると言うことは如何がなものであろうか。
 当社はその解決策として新しい考え方のアクチュエータを開発したので以下に説明する。

2.電動と液動の定義

 電動に対しフルードとなると定義が曖昧になる恐れがあるので、液動なる単語を当て嵌めて見た。以下フルードを液動に置き換えて説明する。
 電動と液動との区別はどのように定義したらよいのであろうか。
 一般的には図1のように電動機を正逆回転させ、同時に出力軸に直結されたボールねじを回転させてやり、ボールねじと噛み合ったナットを直線運動させるものを電動と称することは一般に受け入れられる定義であろう。勿論ボールねじだけではなく、クランク軸の回転運動を直線運動に変換するものも、ボールねじにトグル機構を添加したものも電動の範囲に含まれるであろう。
 要するに電動機の回転方向、回転速度、回転トルクを制御しその回転運動をボールねじに伝達し、結果的にナットの直線運動を制御出来るものを電動と定義するのが一般的と考えられる。
 液動とは図2のように電動機で液圧ポンプを駆動し、圧油を作りだし、その圧油を方向制御弁を介し液圧シリンダのロッドを直線運動させる方式のものが一般的である。
 言い換えると、電動機と液圧ポンプで一定量の圧油を発生させ、液圧シリンダの方向性、速度、推力の制御は制御弁(方向制御弁、油量制御弁、圧力制御弁又はサーボ弁等)が担う方式のものであると言える。
 その他液圧モータ回転させる方式も液動の範囲に含まれるであろう。
同様に電動機を一定方向、一定速度で回転させ、出力軸に直結された液圧ポンプで一定油量の圧油を生産し、その圧油を制御弁で開閉又は流れの方向を制御することによって液圧シリンダのロッドを直線運動させる方式を液動と定義することも出来る。
 従ってボールねじ及びナットは電動機の回転エネルギーを伝達するための単なる力の媒体であり電動機に制御機能を持たせたものが電動であると言うことが出来る。

3.曖昧なアクチュエータ
 当社が開発したアクチュエータは図3のように電動機と二方向吐出液圧ポンプを直結し、電動機の回転方向、回転速度、回転トルクを制御することによって、圧油の吐出方向、吐出油量、吐出圧を自由にコントロールすることが出来る。その圧油により液圧シリンダを直接制御するものである。
(写真1参照)
 この考え方は日経メカニカル1994年9月19日号に『サーボ弁を使わない油圧制御機構』の題名で当社が初めて発表したものである。発表当時から8年以上経過したが、その後1997年の地球温暖化防止京都会議で日本に与えられた二酸化炭素削減目標は日本全体で使用するエネルギーの一割強を削減しなければ達成出来ない程の気の遠くなるようなノルマであった。
 このような環境の中で『電動か液動か』の議論が必然的に沸き起こって来たものであろう。
 図3の考え方は調べて見ると昭和の初期から既にあったもので、よく似たようなHST(Hydro Static Transmission)方式が実用化されている。但し以前は非常に速い速度で電動機を正逆運転する技術もなく、大出力のサーボモータも非常に高価であったため商品には極めてなりにくく、それが原因で普及しなかったのであろう。但しあまりにもシンプルな構造であるため開発に際して『単純なものほど難しい』の諺の通り制御技術の確立に多くの年数を要した。
 この方式をよく見ると制御機能は電動機に依存し、作動油は電動機の回転エネルギーを液圧シリンダに伝達するための力の媒体となっていることが理解出来る。
 従って図1の電動アクチュエータはボールねじ(固体)が力の媒体となり、図3のアクチュエータは作動油(液体)が力の媒体であるので、どちらも電動に分類されるものである。
 電動となると本方式は電動と殆ど同じエネルギー効率となることが予想される。事実当社での試験結果では予想通り通常の液動と比較し、信じられない程の高効率化を達成することが出来た。約90%にも達する高効率となると、ロスが低下した分だけ油温の上昇も抑えられ長時間運転しても作動油冷却の必要がなくなった。更に振動、騒音も大幅に低下し、まさに電動並みの静粛性を獲得することが出来た。
 又制御弁がなくなったため回路構成が極めてシンプルとなり電動機、液圧ポンプ、液圧シリンダを一体に纏めることが容易となり、これをハイブリッド・アクチュエータと名付け、制御弁を使用せず電動機、液圧ポンプで直接アクチュエータを制御する方式をDDV又はDDVC(Direct Drive Volume Control)と命名した。このハイブリッド・アクチュエータとDDVCは既に各文献に引用され一般的な名称となりつつある。
 以上の説明でDDVCは電動の範疇に入るものと見做されるが、当社はそのようには考えない。制御弁を使用せず液圧アクチュエータを直接駆動はしているが、液動の利点も充分に取り入れたものであり、電動の欠点も自然に除去出来ているからである。
即ち電動の利点である
   ・  エネルギー効率が非常に高い
   ・  電動機単体を取付ける感覚で着脱が簡単
   ・  低騒音、低振動
を全て受け継いでいる。
又は電動の欠点である
   ・  大推力製品の生産が困難であると同時にコストアップ
   ・  磨耗が激しい、粉塵が発生しクリーンルーム内で使えない
 これらの欠点は全て除去されている。冒頭で曖昧なアクチュエータとしたが、以上の理由から制御部は電動でありアクチュエータ部は液動であると定義することも出来る。
 従って電動と液動の優劣を論ずるよりもこのような曖昧なアクチュエータが双方の利点を併せ持った混血アクチュエータであると考えた方が論争に終止符を打つことが出来るのではなかろうか。

 



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